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一夫多妻制をめぐる議論

インドにウラニウムを輸出するジレンマ、地球科学や工学部の卒業生の待遇、資源地域での住宅不足、「一夫多妻制を認めよ」というイスラム指導者、多文化社会の文化的な寛容さについて。

アンカー迎康子さん:今日はオーストラリアのメルボルンから、ラ・トローブ大学名誉教授の杉本良夫さんにお電話で伺います。杉本さん。

こんばんわ。

アンカー:こんばんわ。

よろしくお願いします。

アンカー:お久しぶりですね。私にとっては。

そうですね。本当にお久しぶりです。

今こちらは冬の最中で、昼間でも15度前後の気温が続いております。冬時間ですので、日本との時差は1時間で、今は7月18日金曜日の午前1時を回ったところです。

オーストラリアのメルボルンは、大陸の中でも南東部にありますので、北部地域よりは全体に温度が低いのですけれども、住宅街の庭にはツバキやボケの花が今満開です。

それから、これはオーストラリア特有の花かも知れませんが、桃のような花を付けるウィンター・ブロッサム(Winter blossom)という花が今満開ですね。

アンカー:へえ。少し涼しさを分けて頂きたいですね。

(笑)ところがですね、オーストラリア大陸はとても大きくて、北の端にあるダーウィン辺りは熱帯ですので、真冬でも連日30度を超えるというような予報などが、テレビのスクリーンには表れていますが、南のほうに行きますと、南極からは例年ですと真冬には溶けることのない地区の氷河が溶けているという報道が相次いでいまして、地球温暖化の行く末が心配されますね。

アンカー:そうですね。気がかりですね。それにしても、南北に長いということですね。オーストラリア大陸。

そうですね。大陸自体も大きいんですが。

このところオーストラリア経済は、オーストラリアが持っている多くの資源のおかげで、資源ブームになっておりまして、それがやや過熱気味なのですね。資源バブルなんていう言葉も耳にします。

鉄鉱石とか、石炭、ガス、ウラニウムなど、ほとんど何でもあるというような資源国なので、世界各国から熱い目が注がれているというのが、現状のようですね。

石油も全部ではないのですが、かなりの部分を自給していますので、目下、1Lは160円から170円の間辺りでしょうかね。

アンカー:ほう。いいですね。そんなに値上がりもしていない?多少は?

いやあ、一時期に比べるとだいぶ上がりましたし、やはり最近は石油の値段が高いという不満が、あちこちで出ているようですね。

アンカー:ああ。

資源高騰が続いているために、日本からも国際協力銀行が、今後5年間オーストラリアの資源開発に、1兆円という大金を融資するとかですね、海底ガス田などの大きなプロジェクトに協力するというような話ですし、前にもお話しましたが、オーストラリアはウラニウムの埋蔵量が世界一なので、日本の電力会社などもウラン鉱区の新たな調査に、乗り出したりしているようですね。

アンカー:ほう。

それから、海外からですと一番発展の著しい中国の大手の資源会社が、オーストラリアの資源会社の買収を図るというようなこともありまして、オーストラリアの資源権益を巡る国際間の競争というのも、激化してきたようですね。

それから、もう一方の急発展国のインドへの対応というのも、なかなか複雑なものがありまして。インドは核拡散防止条約に所属していませんよね。

アンカー:はい。

ですから、オーストラリアの原則的な立場からいえば、イランや北朝鮮と同じように、インドにもウラニウムを輸出しないのが当然なんですが、インドは最近産業がブームですし、いろいろな商品の輸出相手国としても重要になってきている上に、同盟国であるアメリカが、インドの核技術開発を認めるというようなことになっているために、オーストラリア政府は大きなジレンマを抱えることになっています。

アンカー:立場が難しいというわけですね。

そういうことになりますね。

それから、国内に目を向けてみますと、資源ブームでオーストラリアの社会構造も、だいぶ変動が起きているようですね。

例えば、西オーストラリアやクイーンズランド州などは、特に資源の豊かな地域なんですが、人手が足らずに、技術者や労働者はかなり高賃金で、売り手市場なんですね。

今年の全国の大学生の初任給の平均リストというのが、この前新聞に出ていたんです。医学関係の人たちがトップであるというのは例年と変わらないんですが、今年はアース・サイエンス(Earth science)、地質学とか、地球物理学とか、地形学などの、いわゆる地球科学とでもいうんでしょうか、そういう分野とか、あるいは工学部関係の卒業生たちも、だいぶ健闘しているようです。この範疇の卒業生たちの初任給は、年収500万円を超える勢いですね。

アンカー:へえ。すごいですね。新卒で500万円ですか。

ええ。そういうふうに新聞には報道されていますね。

他方、資源地域への人口移動で、住居不足が深刻になっていまして、この前テレビを観ていましたら、テント生活をして職場へ通っている人たちの映像なども報じられておりました。

アンカー:へえ。

当然、不動産や家賃が高騰して、この地域の影響を受けて、シドニーやメルボルンの東部の大都市でも家屋の値上がりが急激でして、借家の数も不足してきているということです。全体に景気が過熱しているわけですね。

そんなわけで、利子率の上昇というのも非常なスピードでして、定期預金ですと今は8%は普通でして、この前広告を見ていましたら、8.5%という銀行も現れてきていました。

この高い利子を目当てにですね、海外からも預金の流入が絶えないという話です。しかし、当然のことですが、住宅ローンなども上昇していまして、こちらのほうは10%に近付いています。

アンカー:ああ。

住宅を買おうとしている人たちや、大きなローンを抱えている人たちは苦しいわけですよね。

そんなわけで、得をする人、損をする人、資源ブームは社会のあちこちに予期しない波紋をもたらしているようです。

アンカー:でも、世界のお金、世界の注目がオーストラリアに注がれているということですね。

そんな面もあるかも知れませんね。

さて、話は変わりますが、最近、多文化社会の原理を巡って、ちょっとした論争が巻き起こったので、その話をしましょう。

アンカー:多文化社会ですか。

ええ。オーストラリアは"Multicultural Society"、多文化社会というのを標榜していまして、様々な社会からやってきた人たちが、自らの文化をオーストラリア国内でも維持発展させることを奨励しているわけです。

アンカー:はい。

事の起こりは、イスラム教の指導者の人たちの中から、一夫多妻制を認めよという声が上がったんですね。

これは、自らの文化をオーストラリア国内でも維持発展させることを奨励している、という考え方に従ってといいますか、それを利用してといいますか、「イスラム文化は一夫多妻制を認めていますから、イスラム系の人たちには、その慣習を認めよ」という主張が出てきたわけなんです。

これに対してですね、有力紙の社説とか、オピニオン欄とか、投書欄などで一斉に議論が巻き起こりまして、内容が内容だけに漫画などにも採り上げられたり、ジョークの対象にもなったんですが、意外なところから意見が飛び出したのも印象的でした。

それは女性たちからの投書で、「私はイスラムの人たちに大賛成だ。私も3人ぐらい夫が欲しいわね」といった類のものでですね(笑)、こういう投書がかなり各紙の投書欄に現れたんです。

アンカー:へえ。

一夫多妻制とは何事か!という正面切った議論が沸騰する中で、これはなかなか面白い現象だったんですが、英語では一夫多妻制のことをポリガミー(Polygamy)というんですが、このポリガミーというのは、正確には一夫多妻と一妻多夫の双方を意味しているんですね。

アンカー:ほう。なるほど。

現実に存在する男女間の不平等を逆手に取って、ひとひねりしたという感じは、かえって女性解放の考え方が、市民レベルで広く根付いていることを思わせました。

アンカー:ねえ。女性もなかなか仰いますね(笑)

やりますね(笑)

イスラム系の人たちからも発言が殺到しまして、「イスラム文化が一夫多妻制である、という前提自体がおかしい」という投書が、かなり多く目に付きました。「こういう慣習は、イスラム社会でもごく一部に限られているので、あたかもイスラム文化全体の傾向であるように誇張するのは、百害あって一利なし」ということなんです。

たしかにその通りだと思いますが、こういう議論は「何々文化はコウコウである」という言説には、いつも注意しながら聞く必要があることを思い起こさせますね。私も「日本文化はコレコレ」ということを十把一からげに言うことを自粛するようにしております。

もう一つは、多文化社会だからといって、一つの社会の中に複数の法的基準を持ち込むことが、できるかどうかという問題なんですね。

アンカー:ええ。

一夫多妻制ですと、オーストラリアの法律に照らせば、当然、重婚の罪になりますよね。

アンカー:はい。

文化的寛容というのを、このレベルにまで持ち込むことはできないというのが、圧倒的な意見だったのですね。

世界の国々は、どの国も次第に多民族化の傾向を強めることは、間違いないと思いますけれども、一夫多妻制論争というのは、様々な文化の間の寛容と共生を目指すはずの多文化社会の、深層に流れる複雑な構図といいますかね、そういうものを垣間見せることになったようでもありますね。

アンカー:そうですね。難しい問題ですよね。やっぱり民族の文化、伝統、風習、言葉ですとか、大事にしなければいけないし、でも現実にそこで暮らしている時、どんなふうにお互いに折り合っていくのか、ということもありますしね。

そうですね。言葉として多文化社会というのは、なかなかいい感じがするかも知れませんが、いろいろな問題も、また抱えているということになるんでしょうね。

今夜はこんなところでいかがでしょうか。

アンカー:ありがとうございました。

18日放送オーストラリア・メルボルンから杉本良夫さんのレポート

  • 日本ではあまり注目されることのなかった地球科学も、資源争奪競争をきっかけに脚光を浴びるようになるかも知れませんよと、地学の先生が仰っていた通りになりつつあるなと懐かしく思い出しました。もうン十年も前のお話ですが。(編者)

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