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オーストラリア人の労働

大手企業経営者への強い不満感、円高で得をした日本人、へそくり口座を持つ難しさ、出身地によって異なる子供への期待、労働の2つのタイプ、お金を伴わない労働が多いことについて。

アンカー松本一路さん:オーストラリア、メルボルンからラ・トローブ大学名誉教授の杉本良夫さんです。杉本さん。

こんばんわ。お久しぶりです。

アンカー:こんばんわ。よろしくお願いいたします。

こちらこそどうぞ。

アンカー:オーストラリアは南半球ですので、日本とは季節が逆ですから、今は初夏に向かっているところですよね。

ええ。だんだん春が深まってきまして、光線も心なしか強くなってきたような感じです。

先週末から夏時間、いわばサマータイムが始まりました。

こちらではデイライト・セービング・タイム(Daylight saving time)、日照時間を節約する時間という意味なんでしょうか、時計の針を1時間進ませることになったんですね。

日本との時差は冬場は1時間だったんですが、これからは2時間となりますので、今こちらは午前2時15分半に近付いているところです。

アンカー:2時間そちらのほうが早いんですね。

そういうことですね。20度台前半の大変いい陽気なので、大学のキャンパスでは少人数のクラスが、屋外の芝生の上で行われているのを時折目にするようになりました。

柔らかい陽射しを受けて、とても心地よさそうです。

アンカー:ああ、いい季節になってきたんですよね。

そうですね。

アンカー:さあ、今夜の話題は何でしょうか。

今夜はアメリカ発の金融不安が、オーストラリア社会に起こしている波紋を、いろいろな角度から考えてみたいと思うんですが。

こちらでも連日大きな問題になっておりまして。

連邦中央銀行が、今週の始めに公定利子率を一挙に1%下げましたけれども、株価も為替相場も下落に一向に歯止めがかからないようですね。

こうなってきますと、庶民の怒りの矛先は大手企業の経営者たちが手にする大変巨額の給料とか、それから退職金に向けられているんですね。

アメリカほどではないにしても、オーストラリアのトップは凄い額を手にしています。

例えばですね、電話通信会社の最大手、テルストラ(Telstra)という会社の社長の年俸は、契約当時の交換レートに換算しますと13億円。

アンカー:えー!?

それから、マクワリ(マッコーリー、Macquarie)銀行という四大銀行の一つで、この5月に頭取が退職した時には、80億円の退職金をもらうなど、普通の生活者の感覚からするとびっくりするような額なんですね。

アンカー:凄いですね。

これは資本主義が地球規模になるにつれて、エリート経営者が巨大な額で引き抜かれまして、契約期間だけ仕事をしますと、その後は国境を越えて別の会社へ移り歩く、という流れが強まっているんですね。

それで、国際資本主義のトップと一般労働者の所得格差に対する不満が、この金融危機もきっかけとなったのでしょうか、新聞の投書欄やラジオのトークバック番組に盛んに表れるようになりました。

今回の金融危機そのものは、ここのオーストラリアの経営者は責任は無いだろうと思いますが、普段の不公平感が経営者層に対して、例えばファット・キャッツ(Fat Cats)、太った猫というような激しい言葉も飛び出すなど、かなりの不満が噴出しているようです。

アンカー:ふーん。

もっとも為替相場の急変動では、損をする人も得をする人もいるんですが、今年の7月ごろには、1豪州ドルは100円を超えていたんですけれども、現在では70円前後に下がってしまっているんです。

つまり、3割ぐらい円高になった勘定ですね。

円の値打ちが相対的に上がったわけですが、オーストラリアで何年間か老後を暮らそうしてやってきた、日本からの高齢者の方たちは、日本から送られてくる年金などが、豪州ドルにしますと前よりもかなり多きな額になるので、大変喜んでいますね。

アンカー:ああ、3割がた増えるわけですね。

そうですね。3割がた増えたことになりますね。

それから、自宅からの送金に頼っている日本人の留学生なども、円高で一息ついているわけですね。

アンカー:なるほど。

泣く人あれば、笑う人ありなんですね。

ところで、お金の話の余談なんですけれども、オーストラリアでは銀行に口座を置いてへそくりを貯めるのは、なかなか難しいんですね。

といいますのは、銀行口座を作っても、普通は預金通帳をもらうわけではなくて、毎月始めに口座の入出金の明細書が、郵便で送られてくるんです。

貯金通帳と同じように、前の月の金の出し入れが全て印刷されているわけなんです。

ですから、例えば奥さんがへそくり口座を持っていても、その明細書が自宅に届いて、たまたまご主人がそれを開いたとしますと、全貌が分かってしまうわけですね。

アンカー:(笑)ほう。

こうなりますと、山内一豊の妻並みにやるという方法もあるんでしょうが、オーストラリアの定期預金の利率が今は7、8%ありますので、銀行を利用しないと損になりますね。

英語でも"Stash money"や"Money under the bed"といったような表現がありますが、これは税務署などに対して隠しておく現金という意味合いが強くて、へそくりとはちょっとニュアンスが違います。

やはり、夫婦はお互い正直であるのが、当たり前ということなんでしょうかね(笑)

それから経済的に難しい時代になればなるほど、親が子供に対して何を残すかという問題も表面に出てまいります。

子供に教育をつけてやるという方法もありますし、なるべく多くの資産を残してやるという方法もありますね。

もちろん一概にはいえないんですが、医者や弁護士、会計士など高学歴で高い資格を必要とする人たちの間は、例えば中国やインド、東南アジアの人たちの進出が、ずいぶん目に付きます。

アジア系は相対的に教育熱心だといわれています。

一方、目を見張るほどの非常に巨大で立派な邸宅を持っている人たちには、ギリシャとか、イタリアとか、旧ユーゴスラビアとかからやってきた人たちが多くて、そういう不動産を子供たちが引き継いでいくわけです。

こういう家庭では、学歴よりも手に職を付けさせるという傾向が強いんですね。

大半を占めるアングロサクソン系の人たちは、さておきましても、アジア出身の人たちの家庭では、どちらかというと学歴ルートに力を入れる人が比較的多くて、南ヨーロッパや中央ヨーロッパ、東欧では資産ルートに力を入れることが多いようです。

出身地によって、子供への期待感も微妙に違うようですね。

それから、経済状態を反映してでしょうか、我が家の近くでは自宅を改造している人たちが目に付きます。

アンカー:ほう。

これは不動産が高騰していますので、家を買い換えるよりは改築した方が安くつく、という考えなんでしょうね。

もちろん、建築業者や大工さんを頼んでやってもらっている家庭も多いんですが、自分でトンカチやっている人たちも少なくないんですね。

オーストラリアでは、自分で家を建てたという人に時々出くわします。

それから、全部を建てるまでにはいかなくても、改築ぐらいは何でもないと見えてですね、週末や帰宅後に腕を振るっている男性をよく見かけます。

アンカー:ほう。

これは私の持論ですけれども、労働には2つのタイプがあってですね、会社に勤めたり、商売をしたりしてお金を受け取る労働が1つ。

もう1つは、こういう自宅の改良、料理、洗濯、掃除といった家事などのお金を支払ってもらわないけれども、生活の水準を維持したり、高めたりする労働もありますね。

生活には、こういうものも必要ですよね。

アンカー:ええ。はい。

お金を払ってもらうほうの労働をA型としますと、お金の支払いを受けない労働をB型とよぶことができるかも知れません。

そのB型のほうは、経済統計には出てきませんけれども、確実に生活水準を引き上げるわけですね。

どうもこういうB型労働の量が、オーストラリアでは大変多くてですね。

家の増築はもちろんですけれども、自分で車の傷んだ所を直したり、家の内外のペンキ塗り、庭の大改造などは他人を雇わずに、自分でやってしまう人が少なくないんですね。

アンカー:ふーん。

若いころから、こういう労働に親しんでやっていますので、定年後も退屈することなく、お金には現れませんけれども、目に見えない形で生活を向上させている、という構造はなかなか面白いし、経済危機への一つの対応法という役割も担えるかもしれませんね。

アンカー:なるほどね。

労働の意味というのが、いろいろ問い直されている昨今ですけれども、労賃を伴わないけれども生活水準を引き上げるという、B型労働がこれからますます見直されてくるんじゃないかと思いますね。

アンカー:うーん。なるほどね。定年退職後の生き方に、大いにヒントになるオーストラリア方の行き方を、一つ見習いたいと思いますね。

いや(笑)面白いですね。

どこの家にもガレージ、車庫ですが、ツールボックスというのが置いてあります。

この中にはドリル、ねじ回し、それから金づちなどの小道具も入っていますし。

壁に大きなノコギリや木工器具などが置いてあるのは普通の風景なんですけれども、B型労働の道具立てが、どこの家庭にも揃っているというケースをよく目にしますね。

アンカー:そうですか。私もがんばりたいと思います。ありがとうございました。

よろしくお願いいたします。

それでは今晩はこんなところで失礼いたします。
10日放送オーストラリア・メルボルンから杉本良夫さんのレポート

  • 家のことに限らず、できることは自分でやってしまおうという人が多い、ということでしょうか。改築までやってしまうというのは、本当にたくましいですよね。想像ですが、そういうところで男らしい強さを示すことが、どこか求められている文化なのかなという気もします。(編者)

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